ジョルジェット・ジウジアーロ（Giorgetto Giugiaro）のAZTECというデザイン
コンセプトがあった。
このクルマの形はこのとおりであるが、
左ハンドル車であるので、運手席は左側にある。しかし、反対側に回って
助手席側を見ると、こうなる。
はてさて、助手席にはハンドル（ステアリング）らしきものがある。しかし、
二人でクルマ運転は不可能。助手席のステアリングはダミーの装備である。
まったく、形だけのものである。何故、このような形にするのか。
それは、ジウジアーロは対称形デザインsymmetryにこだわっているから。
エクステリアのみならず室内においても徹底的に対称性にしたく助手席を
鏡に写すように運的席と同一デザインし、ステアリング・ダミーまで設けた。
何故、デザイナーはここまで対称性に拘るのか？
話しはいきなり500年以上さかのぼって、ルネサンス期のマザッチオMasaccio
の「聖三位一体」になる。
史上最初に遠近法で描かれたと云われる絵画である。初めてそれを見た
フィレンツェ市民は驚き、絵の裏に回ってキリストの背中を見ようとした、
と言われている。
この時から、あらゆる画家が遠近法の虜になってしまった。遠近法に没頭
した画家が寝食を取らずにひたすら夢中になり、病気になったり生活困窮
した話しは多々ある。たぶん、そのようにして書いた絵によって、完結
した美を求めるという画家の使命感があるのだろう。
ジウジアーロだけでなく現代の画家であるデザイナーにも、遠近法と同じに
拘りつづけるテーマがある。その一つが対称性の追及である。
多くのデザイナーが対称性の魔力の虜になり、それに没頭する事になる。
完結性への使命感にかられて虜になるのであろう、と僕は勝手に思う。
そして、この対称性追求はエンリコ・フミアEnrico Fumiaも主要テーマに
なっており、むしろライフワークのようでもある。
その一つの作品がLancia-Jである。このLancia-Jコンセプトの第一テーマは
シンメトリーという事が、作品を見れば誰でも解る。
シンメトリーであることに留まらず、その指向は部品の対称性までに及び
ドアーの対称性の効果で部品（ドアパネル）の共通化に及んだ。
それが徹底してるのは、ジウジアーロの場合は左右の対称性だけであったが、
フミアのLancia-Jにおいては、左右対称にとどまらず前後の対称性にまで展開
することになった。左右対称と前後対称になるので、４面の対称となる。
フミアは四正面体と述べ、「フォー・サイド・ルック」four-side-lookと
説くのである。
Lancia-Jは2006年の提案であったが、それ以前の９１６ではシンメトリーの
追及はどのようになっていたか。
まず、前後シンメトリーに関していえば、AlfaRomeo伝統デザインは、
エッジシェイプEdge Shapeであるため、前後対称は伝統が許さない。
となると、左右対称にシンメトリー思考Symmetry Orientedを駆使するとする。
９１６のフロントフェースの左右対称性を見ていただきたい。
勿論、左右シンメトリー完全形である。
ただし、しかし、フェイスリフトFace Liftの後は、、、
この通り、フェイスリフト後はナンバープレートがオフセット取付けになり
左右非対称になってしまった。よく言われるブレラ顔Brera Faceである。
2003年、９１６の新しい顔となったのであるが、実はこの顔は新しくはない。
1990年初頭の９１６開発時にエンリコ・フミアは盾Scudoを縦長にした案も
発案していたが、縦に長いの盾にするとナンバープレートが中央に置けず横に
ずれてしまい、対称性が損なわれるので不採用にした、という事実がある。
つまり、対称性を優先した盾のデザインといえる。
（因みに、ブレラ顔は御存知ジウジアーロの案である。が、
しかし冒頭で述べたように、左右対称にひつように拘る彼が、
何故に９１６の対称性を崩したのか？ 端正なデザインを特徴
とするジウジアーロは、完結性を崩すことで自分の提案とした
のか？）
芸術の完結形であるシンメトリーを貫きとうしたのがフミア９１６である。
Design Homage 目次に戻る 
YuＧｔｖ トップへ戻る