Gtv Design Homage

-1- 【 フミア・キャラクター・ライン Fumia Character Line 】

    私のGtvのボディ・サイドにエンブレムがある。                  「disegno Pininfarina」と記され、訳すると「ピニンファリーナによるデザイン」と なるであろう。PinifarinaとはPininfarina S.p.A.というデザインセンターであって、 人間でないので、まさか社屋建物が化けてペンをとってデザインを描くことは出来ない。 それとも、会社社長のセルジオ・ピニンファリーナSergio Pininfarinaが自らペンを  持って書いたこともありえない。それとも、デザインチームの数名の人間が腕を出して 何人もの手で、一本のペンを握って描く事もありえない。              いくら、「ピニンファリーナのデザイン」と表記していても、組織(センター)がペンを 持てるわけないので、素描は必ず唯一一人の人間が描くことになる。         それは、エンリコ・フミアEnrico Fumiaである。                  当時、ピニンファリーナ会社において、モデル製作、試作車開発の責任者であり、   デザイナーであった。しかし、会社である以上は、実際にフミアがデザインしたにも  かかわらず、FIATもセンターもエンブレムは「disegno Pininfarina」とする。    センターによるデザインの場合、デザインが「センターのもの」か、「実際に描いた  人間のもの」のどちらと宣言するかは、絶えず議論される永遠の問題である。     916に関しては、別記テクニカルデザイン最終章で述べる様に、フミア自身が素描か ら始まり試作車の走行試験、試作車完成まで一貫して関わり創りあげたフミア作品である。 <ピニンファリーナ時代のEnrico Fumia> Enrico Fumiaがどのようなデザイン哲学でデザインしたのかを語る事として、     まず彼が自ら認める傑作第一作目を見てみよう。                  Audi Quattro Quartz アウディ・クアトロ・クォーツ 1981年> 以下、これに共通した特徴を持つフミア作品を順に確認する。 <Alfa Romeo 164 1982年> <フェラーリ F90 Ferrari F90 1988年> <Lancia Y 1996年> <奇瑞自動車(Chery Automobile)  WOW-S16 2005年> これら作品には共通したデザイン要素がある。それはボディサイドにあるラインである。 キャラクター・ラインである。                          キャラクターと言うのは、特徴、個性、アイデンティティーのことである。      その自動車デザインに個性を与えて意味(寓話)を与える為に、キャラクター・ラインが 刻み込まれる。                                 では何故ラインを入れることによって、デザインに個性が与えられるのであろうか。  その点について考察してみる。                          自動車のデザインと言うのは立体形の創造である。絵画でなく、彫刻である。     立体物には線(ライン)は存在しない。立体物を平面な紙に書いたレンダリング画は、  線があるがそれは、実存する線ではなく、立体物と背景の境界線にすぎない。     そして、この境界線という線も現実には存在しないものである。この事は、万物の真理 を探究し続けた レオナルド・ダ・ビンチLeonardo da Vinciが自分の絵画を持って主張 していることである。                              いきなりであるが、上はサンドロ・ボッティチェッリ(Sandro Botticelli)の作品  『ヴィーナスの誕生』(La Nascita di Venere) である。この中の彼女の頬の部分を  見ると、線が引かれているのが解る。顔と言う立体形を輪郭線で描いている。     その後の時代、『モナ・リザ』 La Giocondaにおいてレオナルドは、彼女の頬を    線で描かなかった。スフマート(Sfumato)という彼が発明した技法である。     つまり、境界線という線はないので、境界を線ではなくグラディエーションで表現する 手法である。現実真理を描く究極の手法である。                  故に、絵画、写真にある線、もしくは人間視覚で感じる線は、そもそも輪郭や境界で  あって、対象物の形を現したものでない、ということになる。            実際に、下の916Gtvの写真を見ると、フェンダーのところに立体造形の角部分があるが こうして画像(絵)で観ても線とはなってない。あるのは影の輪郭としての線である。 かように立体造形はどのような形であっても、視覚的には造形の違いが解りにくく  ただの4mの立体物があるとしか見えない。それでは、AlfaRomeoの熱き魂をいったい どうやって916の姿態に与え表現すればいいのであろうか。そして、AlfaRomeoの魂を 引き継ぎながらも、AlfaRomeoの兄弟達とは違う個性も備えていなければならない。 そこで、デザイナー・フミアは、916に意図的に線を刻み込むことによって、   キャラクター(魂)を与えた。                          Enrico Fumiaはラインに関して、こう述べる。                    『ラインについては、造形物がユーザー(さらに川上では決裁権のあるトップ     マネージメント)に対して、そのスタイルのアイデンティティを伝達する、     謂わばコミュニケーション手段ということです。その意味で、           重要な機能を担ったラインであり、単なるグラフィックス(遊び)でない。     (中略:次章で記述)                             最近の日本M社の車はデザインで頑張っているといわれていますが、        新しいモデルにみられるサイドライン(スフマート的に表現される         ハイライトを含む)は一貫性がなく、消費者には非常にわかりづらい        ものです。なんとなくかっこいい?ではだめなのです。         』 そのラインは、エンリコ・フミア自身のキャラクター(デザイン主張)であり、 AlfaRomeoのキャラクター(スピリット)を体現させたものである。      フミア・キャラクター・ライン Fumia Character Lineという所以である。

■つづく、次章へ

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