それは、日曜日の夕刻であった。
奇しくもエープリル・フールの日であったが、これは事実である。
夕刻は一番危ない、事故発生率の多い時間帯である。
その時は、新東京サーキットまでカートのメンテに行っての
帰路であった。 もう、自宅まで20〜30分という段階であった。
国道１６号の北千葉インター付近は渋滞してるので、それを回避する為
並行する県道を走っていていた。 四街道市内である。
現場付近は全くの直線で数キロは続いている。 上下２車線で極めて
見通りは良好な場所である。 信号機も少なく、ポツリポツリとGS、パチンコが
道端にある程度で、混雑しない地域である。 ツーツーと流れている状況だった。

但し、この日に限りいつも流れている場所で何故か10台ぐらい車が
止まっていた。 たぶん、前方で右折する車があり対向車が途切れるまで
待っていて、その為の一時的渋滞であろう。 遙か前方なので確認できない。
この、”いつも流れている場所が渋滞”が原因なのであろうと推測する。
この渋滞の最後尾に自分は完全に止まった。  
続いて、自分の後続車も順に止まったであろう。

いきなり、後方で衝撃音と悲鳴なような叫びがあり、とっさにルームミラー後方を
見ると、その瞬間に後続車のパルサーが、数ｍ離れていたのに、ミラーの中で、
小さかった後続車パルサーの像がみるみる大きくなるではないか。 瞬時に。 まるで、
シュノーケル・カメラという、連続ズームの効くカメラで、SF映画の特撮に使われて、
”Star Wars”で使ったのが有名になったカメラで、急激にズームアップする映像。
見てる間にアッという間にルームミラーの中でレンジ一杯になって迫って来ます。
車間あるので、大丈夫と瞬間に無意識に判断してましたが、
次に瞬間、ドーーーーン とショックあり。

ですので、”目で確認してから衝突される”のケースであった。（有意識遭遇）
その時に、大きな音→背後車のズームアップ→追突  というプロセスなので、
多重衝突（玉突き衝突）であろう事は、車中の中でうずくまりながら解っていた。
ショックで一時的にじっとしてましたが、どうやら後方では早々と喧嘩が
始まり騒々しい。 まだ止まってないエンジンを切り、停車処置をして、
すぐに車から出て事故処理を始めました。


自分の身体は、とりあえず現時点では異常無いのを自覚して、後方の確認を
始めた。 私が車外に出たときには、すでに後続車とその後の車の運転手が
口喧嘩を始めていた。 クイックな素速い行動である。 
お互いに、20歳過ぎの若い人である。
「コノヤローどうしてくれんだー・・・」とか、わりと常套句での喧嘩である。
でも、この惨状を見たら、激怒、興奮、逆上してもしょうがない。 が、
しかし、後の運転手（つまり小生の直後の車の、更に後の車）の運転手は
「俺でない。 後を見てくれ。 俺達もやられた」と、身振りする。
で、更に後方に行くと、ありました、ありました加害者と加害車が。
つまり、加害者入れて４台の玉突きである。 前から言うと、
�@自車 Ｙ。 後部のみ損傷、変形。
�Aパルサー。前後損傷。
�Bクラウン。前後損傷。 当然、トランクの損傷は酷い。
�Cクレスタ。加害車。前部極度に損傷。


で、�Cの運転手は歩道にポツンと立って、迫り来る有闇に途方に暮れている。
まもなく、�Aと�Bの喧嘩は中断する。 どっちも、被害者だから。 
しかし、当事者たちは、まだ興奮している。 
�A運転手に、「怪我はないか？」と聞くと、
首をふりふり、「ちょっと痛い」と言う。
「ところで、だれか警察に電話してるか」と、声をかけると、
�C運転手、「携帯電話が行方不明で、困った」という。
で、�Bの運転手が自分の携帯で１１０した。 ここまで、事後処理が進んでいるのを
確認して私は車に戻り、デジカメを手にした。 まだ、現場が保持されている内に
�@�A�B、�Cと、各々のその前後部をメモリに納めた。 これを見た、�C運転手は、
「どうぞ撮ってください。かまわず撮ってください」と、なかば投げやり気味に
止めようとはしない。 で、車�Cまで撮り終えると、�C運転手が免許証を自ら
指し出した。 もう、観念したかの様な様子である。 で、これもデジカメの
モードをマクロ（接写）に切り換えてメモリに納める。 後で、メモリ転送エラーの
可能性もあるので、念のために手書きでも書き留めた。 続けて、自動車任意保険の
緊急カードも提示してきたので、これもデギカメで撮った。
ここらへんで、加害者は携帯電話がないので保険会社、勤務先に連絡できないと
困っている。 しょうがないので、自分の携帯を貸してやった。まったく、
何から何まで手のかかる加害者である。 
準備万端で事故を起して欲しい。


通行中の一般車は前後で、大渋滞である。 
二車線県道の片方が修羅場で塞がっているので、長蛇の渋滞である。 
しかも、４台が不動状態なので約30mぐらいが一方通行区間に化している。
そうこうしてると、通りがかりの一般車の運転手(a)が、急に怒号で、
「じゃまだから、はやく片付けやがれ！」と、青すじ立てて怒鳴る。
�B運転手が、とりあえず誤るので、ブツブツ言いながらその一般でない
怒号運転手は徐行しながら去ろうとした。 が、対向から来た車(b)と接触しそうに
なった。 で、その対向車にこんど、「お前は待ってろ」と怒鳴る。 受けた、運転手
(b)は、「なんだとー」と、やり返す。 両者出てきて、とっくみ合いの寸前。 
(a)の助手席ではその奥方が、「あなた、止めて」と、泣き叫ぶ。 
(b)の助手席では、子型犬が吠えまくり御主人を援護する。 
「このやろー、テメー、あなたア止めてえー、ワンワン・・・（以下リピート）」
で、大騒動の地獄絵図が現場の横で始まった。 �B運転手とその助手席の同僚が
喧嘩を抑えに入ったので、挙げた拳は夕焼けを受けて天空で止まっている。
言葉は迫真の迫力であるが、そう簡単に手は出ないこの国の国民性が如実である。 
小生も仲介と思ったが、リングのゴングは鳴ってないので、格闘前の睨み合いの
ままにしておいた。
そこへ、やっと御巡さんが到着。 原付を止めて、現場処置より先に喧嘩の停止
作業に着手した。 さすが、制服の権威で、喧嘩は徐々におさまる。
これ以上の格闘技は起きてはまずいので、�B運転手、同僚両者が、交通整理を始める。
なかなか、献身的な若者である。 さっきは、要らぬ謝罪までしている。

御巡さんは、喧嘩の沈静化を達成すると、現場把握し携帯無線で本署と119に
電話し、交通事故部隊と救急車を手配した。 まもなく、救急車、消防車、事故検分の
警察車が順に到着した。 �A運転手は立ってはいられるが、大事をとって救急車に
乗りこむ。 周囲の人間が�B運転手、同乗者に病院を促すが、両名とも、それに
及ばずといって乗りこまなかった。 やっぱ、大きい車は頑丈か。
自分も、今は症状の自覚ないといって現場に残って、ピーポーピーポーを見送る。

これで、スタッフはそろい最も緊急性のある救急処置も済んだので、
皆で車を寄せる作業が始まる。 寄せる前には御巡さんがチョークで、現状の
車位置にマーキングを施した。 ラジエターの垂れてる車もあるが、寄せろと言う。
エンジン焼けないかと忠告したが、御巡さん曰く、「数十秒の間だから大丈夫」で、
運転手�B、�Cは、そばに空き地へ退避する。 Ｙと�Aは、歩道に乗り上げた。
消防車は、車から漏れてる路上の液体の処理を始めた。 自分の所見では、
�Cのラジエータ液だけで、油脂類の漏洩はないと思ったが、レスキュー部隊は
なにやら白い粉を巻き、ほうきで飛散したガラス粉砕を掃除してる。




それに前後して、何やら葬儀屋みたいな雰囲気の作業者がそばに立っている。
失礼なことを言って失礼。 それは、レッカー移動の業者の方であった。
吊り上げる車の大きさ、形状を見積もっている。 まるで、棺桶を作る際の、
体格、長さを調べる仕草の様な感じがした。 だって、動けない車って、死んだも
同然ですよね。




現場検証が始まる。 もう、ほとんど暗くなっている。
まず、現場に各運転手と高通課警官が立ちあい、路上で検証を始める。
最後は自分であった。 これって、取り調べの順序があるのか不明。
その後は、個別に個人情報の聞き取りが始まる。 免許証、車検証、強制保険証書、
と勤務先、連絡先、今の車の利用目的等を聞く。 この頃は、すっかり夜で寒い。
加害車運転者は、One-Boxの警察車の中に拘束されて延々と調べられている。
そのルーフには、”事故”って派手なネオンサインが輝いている。
よく、事故が有るとお目にかかる、あの事故処理の警察車である。
今は、その事故の当事者である。 がっくりしてしまう。

車を愛する自分だけに、このように自他の多くの車を壊すなんて、
絶対に許せない行為である。